令和3年の一級建築士試験の設計製図の課題が発表されました。
課題の概要
令和3年一級建築士試験
「設計製図の試験」の課題
課題名
集合住宅
要求図書
・1階平面図・配置図(縮尺1/200)
・各階平面図(縮尺1/200)
※各階平面図については、試験問題中に示す設計条件等において指定する。
・断面図(縮尺1/200)
・面積表
・計画の要点等
(注)建築基準法令等に適合した建築物の計画(採光、建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)とする。
建築物の計画に当たっての留意事項
・敷地の周辺環境に配慮して計画する。
・バリアフリー、省エネルギー、セキュリティ等に配慮して計画する。
・各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
・建築物全体が、構造耐力上、安全であるとともに、経済性に配慮して計画する。
・構造種別に応じた架構形式及びスパン割りを適切に計画するとともに、適切な断面寸法の部材を計画する。
・空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備、昇降機設備等を適切に計画する。
注意事項
「試験問題」及び上記の「建築物の計画に当たっての留意事項」を十分に理解したうえで、「設計製図の試験」に臨むようにしてください。
なお、建築基準法令や要求図書、主要な要求室等の計画等の設計与条件に対して解答内容が不十分な場合には、「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」等と判断されます。
課題名が用途だけを示すものであったり、注意書きが1つだけになったり、例年の課題概要と比べると情報量が少なくなっています。
試験本番には、問題用紙に記載されている設計条件等を適切にまとめる対応力が、今まで以上に求められるでしょう。
設計条件の振れ幅が大きい課題概要なので、集合住宅の設計における基本的な計画力を身につけることにプラスして、さまざまな引き出しを持っておくことが、試験対策の方針になります。
注目すべきポイント
- 階数指定
- 建築基準法令等
- 採光
階数指定
令和2年と同じく、課題概要の時点では階数が指定されていません。
用途の性質上、低層から中高層までさまざまなタイプの集合住宅が想定されます。
過去の問題では、3階建ての低層階型や5階建て・7階建ての基準階型の出題があります。
昭和58年の4階以下とするものや、昭和47年の地下1階・地上4階のものなど、イレギュラーな出題も過去にはありましたが、そのような条件の課題はあまり考えられません。
近年の傾向や問題用紙のサイズから、集合住宅の構成は次のようなものが想定されます。
- 1〜2階 共用部・その他施設、3階もしくは3階以上 専有部
- 地下1階 駐車施設、1階 共用部、2階以上 専有部
- 1階 共用部、2階以上(最大15階建て程度)専有部
建築基準法令等
言葉あそびのようですが、令和2年は「建築基準法令に適合した」と表記されていた注意書きが、今年は「建築基準法令等に適合した」に変わっています。
この「等」に含まれるものとしては、バリアフリー法(高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)と消防法が考えられます。
令和2年には、別の注意書きとしてバリアフリー法について書かれていたので、実質的には消防法がプラスされたと言えるのではないでしょうか。
消防法の観点から、屋内消火栓、スプリンクラー、連結送水管などの設備関係や、消防活動用空地(はしご車等が利用する空地)などの屋外空間が要求される可能性があります。
採光
令和2年に問題用紙の留意事項で記載されていたが、課題公表のタイミングでは示されていなかった採光について、今年の課題概要では明記されています。
集合住宅で考えられる採光が必要な居室は、専有部におけるLDKや寝室や子ども室などの個室、共用部における集会室や管理人室(常駐の場合)など、大半の室が該当します。
道路に面して居室を設けるか、必要な離隔距離を確保して建物を配置することで採光を確保する手法が考えられますが、後者の場合で7階建てなどの高層の計画になる場合は注意が必要です。
全体的な難易度
一級建築士試験の設計製図課題は、課題概要の情報量と用途の特性の2つの側面から難易度を考えることができます。
課題概要の情報量
7月21日に公表された令和3年の課題概要は、例年に比べて情報量の少ないものでした。
平成のあいだに5つの類似課題が出題されましたが、いずれの課題名にもヒントがありました。
- 平成27年 市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅(基礎免震構造を採用した建築物である。)
- 平成18年 市街地に建つ診療所等のある集合住宅
- 平成13年 集合住宅と店舗からなる複合施設
- 平成11年 高齢者施設を併設した集合住宅
- 平成5年 メゾネット住戸のある集合住宅
令和2年度の「高齢者介護施設」は課題名がシンプルである点は共通していますが、注意書きで建築物の構成が示されていました。
情報量が少ないだけに、本試験で問われるであろう設計条件等の特徴がとらえづらく、振り幅の大きい課題だと言えます。
予想がたてづらいという意味では、令和3年の一級建築士試験の設計製図はむずかしくなりそうです。
用途の特性
集合住宅は共用部と専有部で構成され、それらのゾーニングは明確に分けられるのが基本です。
高級マンションやコンセプトメイキングな集合住宅であれば、専有階にラウンジなどの共用スペースが設けられることもあり得ますが、特異な室が要求される可能性は低いと言えます。
そうすると、バリエーションがあるのは共用部かという話になりますが、そこまでイレギュラーな条件にはならないと予想します。
- 住民の利用が想定される共用部の一部とみなせる空間(ラウンジ、集会室、駐車施設など)
- 住民以外の利用が想定される外部利用者が専有的に管理する空間(店舗、事務所、福祉施設など)
- 中間的な空間(レストラン、喫茶店、展示スペースなど)
共用部の諸室は、上記の3つのうちいずれかの空間に分けることができますが、想定の域を超えるものが要求されることは考えづらいです。
用途の特性という観点からは、ある程度パターン化した条件になる可能性が高く、型にはめやすい(=比較的やさしい)課題だと言えます。